いつも当店をご利用いただき、誠にありがとうございます。
スタッフの伊藤です。
先日、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の『欲望』(1966)を見ました。

舞台は1960年代のロンドン。やり手で破天荒な人気カメラマンが、好奇心から公園で撮影した写真の中に殺人の決定的な証拠らしきものを捉えてしまう。
写真を引き伸ばして細部を確かめるほどそこにあるはずの「真実」は輪郭を失っていき、事件の確証も、現実そのものの手触りすら曖昧になっていく…といったストーリー。
戦後相次いだ植民地の独立や米ソの台頭によって、「大英帝国」という巨大な物語が終焉しつつある60年代イギリス。
国際的にも60年代は、国家や宗教、進歩史観など、近代を生きる人々の意味を保証してきた「大きな物語」が、もはや疑いようのない前提ではなくなりつつある時代です。
共通了解としての信仰の最大公約数が失われた社会においては、個人それぞれが自らの意味を引き受けなければなりません。
しかし、その足場は決して安定したものにはならず、意味を見出そうとする主体だけが空転し、宙吊りのまま取り残されます。
欲望は、まさにこの宙吊りの感覚を映像にした作品だと思います。
成功も名声も手にした人気カメラマンである主人公は日々豊かさと刺激に囲まれながら、それでも意味に近づいた実感を得ることができません。
主人公の行動は常に前進しているものの、物語の最後までどこにも到達することがありません。
出来事は断続的に爆発しますが、それらは物語としての収束ではなく、空虚を一時的に撹拌するための単なるエネルギーの噴出に過ぎないように映ります。
大きな物語を失った世界で、運動だけが残る。
目的を欠いた前進、理由なき好奇心、過剰に刺激的な消費。それらはすべて、意味の不在を埋め合わせるための代替的な駆動装置のように感じられます。
その象徴的な場面が、最終盤のパントマイム・テニスのシーンです。
ラケットもボールも存在しないまま、若者たちは真剣な身振りで試合を続け、主人公も最初は戸惑いつつも、やがてその「見えないボール」を拾い、コートの中に投げ返します。
そこには実体がないにもかかわらず、彼らのあいだでは確かにゲームが成立している。
意味の不在を前提としながら、それでもなお振る舞いによって相互に世界を成立させる人間の姿が、静かに、しかし決定的に示されているように思えました。
内実が空洞であるにもかかわらず、外側の構造や質感が圧倒的な強度を持っている。
この映画が強く印象に残る理由は、まさにそこにあるのでしょう。
意味が解体されつつある時代において、形だけが先行し、それ自体が魅力として成立してしまう。
内容が空であることさえ、ひとつの内容として提示される。そのような倒錯した魅力があります。
最近個人的に考えていたことともシンクロする内容で、かなり好きな映画でした。
自己や日々が空疎なものだとしても、事後的に外郭や構造を洗練し、強固にしていくことはできる。
そうすれば少なくともそこに何かは残る、という希望を持つことはできる。
日々前向きにやっていこうと思える究極のポジティブ映画かもしれません。
是非。
・
・
・
昨日ぐらいから急にいい感じの過ごしやすい気温になりましたね。
もはや「日本には四季がある」という恒例のフレーズもまっすぐ言えなくなって来た昨今、一年のうちわずかな過ごしやすい気温の時期に楽しめるだけ楽しみたいものです。
ということで、本日はこの時期うってつけのこちらをご紹介します。

古いフレンチのスモックと、新入荷のウールトラウザー。
ここから春に向けてまた寒くなったりいい感じになったりを繰り返す中、サラッと着ることも出来るしそこそこ防寒もできる、この辺りのアイテムがハマるのではないでしょうか。
前にも似たような話を書いたことがあるかもしれませんが、個人的にスモックは好きなジャンルです。




出勤のときにもよく着てきているのですが、やっぱり何といっても一枚で決まるのが良いなあと思います。
インナーに何を着るかをそこまで考えなくても成立するし、重ねても収まりが良い。
気負わずに手が伸びる服というのは、結局のところ日常の中で一番出番が多くなる気がします。
よく聞く意見として、被りのタイプは脱ぎ着が不便というものがありますが、その不便さも愛おしいです。
確かに前開きの服に比べれば着るときも脱ぐときも少し手間がかかりますが、頭をくぐらせて袖を通して、鏡を見ながら形を整える。
この一連の過程が服を着ているという実感を何となく持たせてくれるというか。
これだけいろいろなものが便利になった世の中ですから、自分が日頃身につけるものくらいは、多少不便なくらいがちょうどバランスが取れるのではないでしょうか。
手間をかけないことを志向する価値観の中であえてワンテンポ遅れるような道具を選ぶことが、結果として自己や生活の輪郭をはっきりさせてくれるような気もします。
話が飛びますが、少し前にポケットモンスター ソードを購入しました。
驚いたんですが、今のポケモンはがくしゅうそうちがなくても手持ちのポケモン全員にけいけんちが入り、ボックスにもいつでもアクセス出来るようになっています。
昔ダイパとかを遊んでた頃の感覚からすると比較にならないほどユーザビリティが洗練されていました。
ただ、その充実ぶりに少しシラけて結局遊ばなくなってしまって。
げんきのかけらの個数に気を配ったり、洞窟であなぬけのひもが無くて詰んだりするあのむず痒さを楽しんでいたんだなと気づきました。
こうして人は新しいものに少しずつ不寛容になっていくのかもしれませんが、便利すぎることにどこか落ち着かなさを感じるのも事実です。
理由なき前進運動が繰り返され続ける現代において、少しの余白や不便の中にしか生まれない感覚というものが確かにあるのだと思います。
上手く繋がっているか分かりませんが、それではご紹介へ。


40's
COTTON
SMOCK PARKA
MADE IN FRANCE
FITS LIKE FR48
40年代ごろのコットンスモックパーカー。
カサっと乾いたサンドベージュカラーのキャンバス生地で、年月の中で着こまれてかなり柔らかくなっています。
若干フェードもしており、色味としてはかなりファッションユースしやすいです。

太さのあるドローコードが無骨でかっこいいです。
首元の紐がこれだけ太くて長いスモックもあまり見かけない印象です。

生地が柔らかい割に、フードはしっかりと自立してくれます。
ピンピンだった頃の矜持を感じますね。
個人的には、この手の被りでフードがクタッとしてるとなんとも言えない気持ちになるので嬉しいポイントです。

フロントジップ。
見たことのないジッパーがついています。
引き手は真鍮でレールとスライダーは鉄?でしょうか。

フロントのデカいポケット。
アノラックを象徴する視覚的にポップなディテールです。
ポケットはここ一つの潔い仕様で、フランス軍のスノーカモとかと似たような作り。
腰にポケットがつくイギリスタイプのハイキングスモックだと多分腰ポケ使っちゃってここ使わないと思うので、この潔さを受け入れ、ここにスマホとか財布とか全部入れて街に出るのが乙だと思います。
せっかくの大きさと収納力、利用しない手はありません。

首元のものとは全くデザインの違う小さいジッパー。
こちらのジッパーは中空で縁に装飾の入る一際凝った造りです。

ジッパーテープの褪せたネイビーもいいですね。

袖はリブ付きです。
この年代のリブは独特なパサっとした質感があって、いかにも古着らしいです。
このパサパサしたリブですが、使っている素材や技術の結果として当時からパサパサしていて、40年代のフランスに生きた人たちも服についているリブはパサパサしたものだと思っていたのか、経年変化の結果としてパサパサしたのかは最早わかりません。
古着のロマンは根本的に到達できない過去への郷愁にある気がします。

綺麗なスクエアカット。
裾にはドローコードもリブもつかないミニマムな作り。
古着としての魅力と街着としての着やすさが高水準で両立している、めちゃくちゃかっこいいスモックだと思います。
それでは着用感をご紹介します。

身長170cm/50kgの自分でしっかり肩が落ちるサイズ感。
イギリスタイプにありがちな丈が長すぎるということもないので、多少大きめで着用しても違和感も出ずらいです。
ガサッとしたコットンキャンバスが肌馴染みよく、tシャツの上からでも問題なくお召しいただけます。
今回は太めのウールスラックスでドレスとのバランスをとりましたが、カーゴパンツやデニム、ハーフパンツなどで徹底的にカジュアル合わせでも可愛いと思います。
babourのファーベストとか上からレイヤードしてみても面白いですね。
着る人の好みや体型で、どんな方向にも振れるような可能性に満ちた一着です。
是非。
それでは合わせたパンツをご紹介。


〜60's
STRIPE WOOL
TROUSERS
MADE IN FRANCE
SIZE:FITS LIKE W29
フレンチメイドの古いウールストライプパンツです。
濃いめのダークネイビー地に控えめに走るピンストライプ。
先ほどの着画通り、腰回り細めで裾幅太めの今っぽいサイズバランスです。

カジュアルなフロント2タック。
コインポケットがつきます。

台形ループも嬉しいですね。
背面中央は少し小さめの台形ループになります。
理由は分かりませんが、ベルトループの太さひとつ取っても画一的じゃないのが古着の楽しいところ。

この辺りのフレンチものらしい形のサイドアジャスターもしっかり完備です。

フロントのトップボタンにはアルザス地方、ストラスブールの刻印。
付け替えられたものでしょうが嬉しいポイントです。

フロントボタンは色々と付け替えられており、ウッドボタンやプラスチック、ベークライトボタンが賑やかです。

股下ガゼットです。
ウエスト小さめなので実際に可動域が広がるのは助かるバランス。

裾はダブル仕上げです。

横から見るとこんな感じです。
お尻が貧相すぎてシルエットがあまり綺麗に出てないですが、ウエストが合えば最高のサイズバランスだと思います。
2タック、台形ループ、太い裾幅、サイドアジャスター、裾ダブル仕上げ。
自分がこうだったらいいなと思うスラックスの条件をほとんど満たしている役満の一本です。
サイズ合う方は是非!
続いてはこちら。


〜60's
WOOL TROUSERS
MADE IN FRANCE
SIZE:FITS LIKE W29
フレンチのウールトラウザー。
しっかりブラックカラーで無地の汎用性の高い一本。
こちらもウエスト細め裾幅太めのナイスなサイズバランスです。


ベルトループの下をくぐらせる長い持ち出しとコインポケット。

フロント1タックです。

サイドアジャスターもぬかりなく。

間隔広めのボタンフライ。
細かいパイピングが施された丁寧な作りです。

こちらもダブル仕上げ。

履いてみるとこんな感じです。
やはりズドンと落ちるワイドストレートシルエットが魅力的ですね。
レングスは自分でしっかり溜まるぐらいあります。
生地感柔らかいので動きも出しやすいですし、何よりサラッと快適です。
もう何を合わせても問題ないような一本。
こういうものがクローゼットに一本あるだけで、服が決まらない朝の切迫具合は大きく変わってくるはず。
仕事からバイトからプライベートから、いついかなる時でも頼りになる、最終防衛ラインとしていかがでしょうか。
最後はこちら。



1976
FRENCH NAVY
WOOL
SAILOR PANTS
MADE IN FRANCE
SIZE:74-80
フランス海軍のウールセーラーパンツ。
1976年製です。

前立て付きのクラシックなセーラーパンツ。

スッキリとしたヒップ周り。

前立てを外すとこんな感じです。

内側の腰ポケットは両玉縁です。

裾までストンと落ちるやや細身のストレートシルエット。


こちら着用感です。
やはりやや細めのストレートシルエットが美しいですね。
自分で靴にかかるかかからないかぐらいのレングスです。
ウール生地も中厚なので、今時期コートなどと合わせるにも持ってこいの一本です。
面倒臭いなあと思いながら前立てを外して、足を通して、また前立てを取り付ける。
些細な不便利を慈しんでいただければと思います。
・
・
・
本日はこのぐらいで。
今回ご紹介したスモックとウールトラウザーは、これから春を迎えるにあたって即戦力になってくれるアイテムです。
気温の変化が激しいこの時期、何を着ればいいのか迷う日も多いですが、こうした中間的なアイテムがワードローブにあるだけで選択はぐっと楽になるはずです。
季節が移ろう中、装いも少しずつ軽やかになっていくこれからの時期。
今回ご紹介したアイテムが、日々の服選びの中で長く寄り添ってくれる存在になればと思います。
また、最後になりましたがオーナー世田の買付便第一陣も店頭に到着しており、これからも徐々にご紹介していきます。
こっそり店頭に追加しているものもございますので、
明日も皆様のご来店お待ちしております!